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Little me

本、映画、ドラマ。感じたことをそのままに。

強い女性はNYの街が生み出す -"The September Issue"/「ファッションが教えてくれること」

Movies

この映画を見るのは2度目になる。"The Devil Wears Prada"(プラダを着た悪魔)のモデルのドキュメンタリーと言われるが、映画があながちフィクションでもないことがわかる。

ファッションが教えてくれること [DVD]

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 アメリカ版「ヴォーグ」の名物編集長、アナ・ウィンターに密着したドキュメンタリー。ファッション業界で絶大な影響力を持ち、『プラダを着た悪魔』のモデルともいわれる彼女の妥協を許さない仕事を通し、働くことの厳しさと喜びを映し出す。(Amazon商品紹介より)

ヴォーグの編集長といえばファッション業界のみならずNYを中心とした経済界に大きな影響力を持っていることは、業界にいない私でも十分に分かる。彼女の仕事ぶりは妥協がなく、そこには変な慈悲やえこひいきがない。その意味で見ていて気持ちがいい。できるだけ周りに良く思われたいという愛され願望を捨てた女性は本当に強い。

私もNYにいるスーパーウーマンにかつて仕えたことがあった。立場的には雲の上の存在だったが直接レポートする機会は多かった。彼女は寝る時間以外はブラックベリーを常にチェックし、特にはマシンガンのようにメールを連打し時には怖いほど静かに間を置く。寝る時間といっても4時間ほどなので、その寝静まっている間、ちょうど日本のお昼すぎから夕方にかけて、彼女に与えられた問いに対する答えを起床までに用意すべく狂ったように物事を進めていたのが懐かしい。なので"The September Issue"を見たときはアナ・ウィンター本人よりもスタッフたちに共感して見入ってしまった。

そんな雲の上の存在の仕事ぶりを目にしながらも、NYで働くということは私にとって憧れだった。スピードと刺激のある毎日、最先端のファッションやアートやライフスタイルに触れながら、あの街をわがもののように闊歩できたらいいなあ。NYへの転勤の機会を狙っていたのは言うまでもない。

とはいえ、そうは簡単には物事は進まないので、まずは旅行で訪れることにした。社会人3年目、初めての1人旅だ。ちょうどクリスマスの前にあたり、NYはイメージよりもさらに活気よく、人は幸せそうに、ショーウィンドウの中は踊りだしそうに見えた。ついに来た、憧れの地…!目に映るもの全てが新鮮で、買ったばかりのブーツの底がすりへるほど歩き、1ブロックごとにカメラのシャッターを切り、この空気を忘れないようにと道の真ん中で大きく深呼吸をした。

私はホテル代を浮かせるために、マンハッタンから川を渡ったニュージャージーでアパートの一室を借りて泊まっていた。日本人の男性とアメリカ人の女性の初老の夫婦がオーナーだ。そこから毎朝、マンハッタンへ向かう通勤バスに乗って観光へ出ていたのだが、何日かたってだんだんワクワクから妙な気持ちに変わってきた。トンネルをくぐるとき、何だか大きいとてつもないエネルギーに吸い込まれていくような気がするのだ。東京育ちの私は大都会には慣れているはずなのに、それでも広い宇宙にぽつねんと小さい私がいるような途方もない気持ちになってしまった。

翌日、オーナー夫婦と会話をしてその理由が分かった。手際よく奥さんの方が朝食を用意するので感心して(朝食をふるまわれて一緒に食べていた)、「結婚する前から料理はしていたの?」と聞くと、「まさか、とんでもない!結婚した初めは包丁の握り方すらしらなかったよ」と旦那さん。本人曰く、「だってNYに住んでいて独身で料理する理由なんてある?色んな世界中の料理がどこでも手に入れられるんだから買えばいいし、洗い物もしなくてすむ。だいたい、仕事が終わったらアートや映画を鑑賞に行ったり友達と会って飲んだり一人でカフェで本を読んだり、やることがいっぱいあるんだから。地下鉄も24時間動いてくれてるから、家は帰って寝るだけ。結婚したら家でご飯が食べたいなんて言われてびっくりしちゃったわよ」とのこと。この合理的な考え方!そう、NYからは生活臭がしないのだ。もちろん、高い家賃をゆうに払えるセレブばかりではないが、それでも皆が毎日の生活のルーティーンにかける時間やエネルギーを"もったいない"と考えていそうな空気を感じる。それがNYに来て感じた違和感だったのだ。その中でトップクラスの仕事をし稼いでいる女性たちが、誰よりも強く鋭くなるのは当然のこと。これに気がついて、ここで働くということに関してしゅるしゅると自信がなくなってしまったことを覚えている。

憧れの地、NY。もし住む機会があったとしたら、私はそのエネルギーの中で埋もれずにサバイブできるのだろうか。母となった今なら逆に逞しく生き抜けるのだろうか。